ひろやす/伊藤(vnnc8158) 2025-09-18 22:12:11 |
鉄道分野のGXに関する基本的考え方
これまで見てきた鉄道産業の特徴と鉄道分野の脱炭素の取組を、経済成長(特に製造業の産業競争力強化)やエネルギー安定供給の観点から捉え直し、鉄道分野のGXに関する基本的な考え方を以下のとおり示す。 ▽気候変動への対応を契機として、世界的に鉄道に対する関心が高まっており、これは我が国鉄道産業が最先端の省エネ技術や革新的な車両を武器に、海外需要を取り込んで成長する絶好の機会である。この好機を逃すことなく、官民一体で鉄道分野のGX投資に取り組む必要がある。 ▽国は、脱炭素効果の高い次世代型車両・関連設備の導入・普及を強力に推進し、開発・生産投資の促進、量産化・標準化を図り、コスト低減を目指す。 ▽複数の鉄道事業者がそれぞれ開発を進めている水素車両については、共通する技術課題の解決に向けて、鉄道事業者やメーカーの垣根を超えた連携・協調を促し、幅広い線区で走行可能な水素車両を早期に実用化する。トランジションにおいては、「技術ポートフォリオ」の考え方に基づき、様々な選択肢を状況に応じて使い分けていく。 ▽水素やバイオディーゼル燃料等の次世代燃料の安定供給の確保に向けて、需要の創出やサプライチェーン構築等に関して、他分野・他業界との連携の枠組みを強化する。 ▽官民の関係者が連携して、我が国鉄道技術の国内・国際標準化を推進し、メーカーの設計・製造負担の軽減を通じて、海外案件への対応力を強化するとともに、省エネ・脱炭素技術の活用を切り口とした「日本型鉄道GXパッケージ」の海外展開に取り組む。 ▽メーカーは、海外需要の取り込みに必要な設計・製造能力の確保、設備投資に取り組み、生産性向上を目指すとともに、鉄道車両に係わるカーボンフットプリントの導入を通じて、サプライチェーン全体に排出削減の取組を波及させる。 ▽鉄道事業者は、国・関係団体等による環境整備を前提に、次世代型車両の導入等のGX投資を最大限前倒しするとともに、導入後のオペレーションに責任を持ち、ハード・ソフト両面での取組により、2030年代に2013年度比で実質540万tを削減するとしている排出削減目標の早期達成を図る。 ▽エネルギー安定供給の観点から、電力の需要側である鉄道事業者においても、鉄道アセットを活用した再エネ発電、変動性再エネの調整力となる蓄電装置の整備等、再エネの主力電源化に対応した鉄道システムへの変革を進め、官民の関係者で広域的なセクターカップリングに取り組む。 ▽国と鉄道事業者が一体となって貨客両面でのモーダルシフトを推進し、鉄道の環境性能の向上を運輸部門全体の排出削減につなげていく。一方、環境優位性が発揮できる鉄道の利用を増加させることにより、鉄道分野の総排出量が増加することも想定されるが、その場合は運輸部門全体での排出削減につながる効果を適切に考慮する必要があることにも留意する。 鉄道分野のGXを進めるための目標等 鉄道分野のGXを着実に進めるため、主要鉄道事業者(JR、大手民鉄、地下鉄事業者)を対象として、以下のとおり具体的な目標を設定し、その実現に向け、前提となる環境整備を含めて、官民の関係者が連携して取り組む。なお、主要鉄道事業者以外の鉄道事業者においても可能な範囲において取り組むよう努めることとする。 (省エネの徹底) ◇電化区間においては、次世代パワー半導体や高性能モーターを採用した高効率車両への更新・改造を加速し、原則として2035年度までに、現状で5,000両以上存在する非VVVF車両及び初期のVVVF車両(GTO方式)の置き換えを完了する。 ◇各鉄道事業者において回生電力の実態把握に努め、2030年度までに車両・設備の改良等を含む回生電力の活用促進計画を策定する。 ◇2030年度までに営業線仕様の超電導送電システムを実用化、2035年度までに直流電化の営業線に導入・展開することを目指す。 ◇高効率車両の導入、回生電力の活用、送電ロスの低減、省エネ運転の実施等により、2040年度までに主要鉄道事業者全体のエネルギー使用量を2013年度比で25%以上削減することを目指す。 ◇併せて、日本の技術を活用した省エネ型車両・機器・システムの海外展開の拡大を図る。 (非電化区間のGX) ◇2030年度までに、水素車両の営業運転開始を目指す。営業車での走行実績を積み重ね、国際競争力を確保するとともに、並行して、幅広い線区で走行可能な水素車両の製作を進める。 ◇2030年度までに、バイオディーゼル燃料による営業運転開始を目指す。 ◇非電化区間における脱炭素化を強力に推進するため、2031年度以降に主要鉄道事業者が非電化区間に新規導入する車両は、ハイブリッド車両、蓄電池車両、水素車両を原則とする。トランジションでは、様々な選択肢を状況に応じて使い分ける。 ◇具体的な導入車種については、線区の条件、エネルギーの供給・コストの状況等を踏まえて鉄道事業者が判断するものとするが、2050年カーボンニュートラルを見据え、導入条件が整っている場合はゼロエミッションな蓄電池車両や水素車両を優先する。 ◇今後、電気式気動車やハイブリッド車両を導入する場合は、発電用エンジンを改造して水素等による発電システム等に換装できるようにする等、将来の更なる省CO2化への対応を予め考慮した設計とすることを検討するほか、可能な限りバイオディーゼル燃料の使用に努める。 ◇上記の取組により、2040年度までに主要鉄道事業者全体で鉄道車両の軽油使用量を2013年度比で40%以上削減することを目指す。併せて、日本の技術を活用した水素車両等の海外への展開を図る。 (再エネの最大限導入) ◇次世代型太陽電池の開発状況等も踏まえ、各鉄道事業者において2030年度までに鉄道アセットの活用を含む再エネの導入目標を設定し、省エネ法に基づく次期中長期計画等に反映する。 ◇主要鉄道事業者全体で、鉄道アセットを活用した再エネ発電の設備容量(約5万kW)を2035年度までの10年間で2倍以上に増やす。 ◇オフサイトPPAや非化石証書等の活用を含め、2040年度において、主要鉄道事業者全体で使用電力の実質7割程度を非化石由来にすることを目指す。 (国・関係団体等による環境整備) 上記目標の達成に向けて、国及び関係団体等においては、国のリーダーシップの下、以下の環境整備に努めることとし、鉄道事業者とともに最大限の取組を行う。 ◇高効率化や次世代燃料を利用した車両・設備の導入に向けた支援制度の検討 ◇次世代エネルギー等の安定調達に向けた他業界との連携の枠組み ◇海外展開に向けた標準化戦略の策定等 ◇GXを加速・持続するための各種規制・制度の合理化 ◇モーダルシフト・鉄道利用の促進 おわりに 本研究会では、鉄道事業者のほか、鉄道車両・機器メーカーも議論に加わり、鉄道分野のGXに関する基本的な考え方と目標等について、一定の整理を行った。 今後、更なる戦略の具体化に向けて、関係者間で検討を深めていくこととする。 |
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